タイタニック事故と操舵号令
2021/01/26 13:06:33 船のあれこれ
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先日、「タイタニック事故の真実」?みたいな(タイトル忘れました)テレビ番組をやってて、ぼんやりとみてたんですが、以前このブログで
肩章のはなしってのを書いた記憶がよみがえってきました。
・・・・たしか、「そのうちまた書きます・・・」みたいな事言ってたなあ(;^ω^)
この前見たテレビ番組では、「タイタニックが沈んだのは船内の石炭火災が沈没の原因だ!」みたいな内容でしたが、沈没原因は現在でも諸説あるようで、いずれにしても、生存者の証言から氷山にぶつかったのは間違い事実ですから、そこに着眼して、今回は書いてみます。
なんでハードスターボード?
レオナルドディカプリオ、ケイトウィンスレット主演、ジェームスキャメロン監督の映画「タイタニック」をご覧になった方も多いと思いますが、見張りが氷山を発見して、号鐘を乱打し、それに気づいた当直士官のマードック一等航海士がこう叫びます。
「ハードスターボードォォォォォ!!!!」「フルアスターーーーーーン!!!!(後進一杯)」
操舵手は舵輪を左に激しく回転させ、タイタニック号の巨体がゆっくり左回頭していく・・・・
しかし、回頭が間に合わず右舷側が激しく氷山に接触し、船体が損傷する・・・
あれ?
なんで左回頭?
そうなんです。
「ハードスターボード」という指示だと、「急速回頭、船を右に向けろ」という号令ですから、映画が公開された当時「間違っているのではないか」という議論が沸き上がったそうです。
ところがこれは正しかったのです。
実は歴史的にみると、操舵号令が国際的に統一されたのはわずか100年にも満たないのです。
もともと、現在の船のように、舵輪を回してなにがしかのリンケージを経て、操舵機を介し、船尾から水中に設えた舵板を操作するといった複雑な構造を持った船舶が確立される前は、柄を直接操作して操船していました。
(小型船外機のイメージです)

こんな感じです(画像はトーハツさんからいただきました)
そのため、柄を右向ければ船は左に、左に向ければ船は右に曲がります。これを「間接法」といい、進行方向を指示するのが「直接法」といいます。
「直接法」と「間接法」
指示が全く逆になるのですから、大変危険です。
当時英国は(タイタニックは英国船籍)間接法を採用していたため、「ハードスターボード」は舵柄を右に(船を左に)という指示だったのですが、フランスなどでは直接法を採用しており、国際的にも混在していました。
一説によれば、当時舵輪を握っていたヒッチェンズ操舵手は直接法で訓練されていたため、危機に直面した際パニックに陥り、操舵を誤ったという説もありますが、いずれにしても推論でしかありません。
こうした教訓からルールが統一されます
タイタニック事故を契機として、「海上における人命の安全のための国際会議」が1929年ロンドンで開催され、様々な安全対策を盛り込んだ国際条約(SOLAS条約)が改正されました。
日本でもこの条約を受けて、船舶安全法施行規則に号令のルールが明示され(のちに海上衝突予防法に転記)船の進行方向に操舵号令を発する「直接法」に統一されました。
このほか、海上における様々なルールは、大半が悲惨な海難、多数の犠牲によって確立され、安全規制は、私たちの生命や財産を守り、経済を支える根幹であって、先人たちに深い感謝を捧げます。
同じ「コロナ」でも・・・
2020/05/18 14:53:39 船のあれこれ
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特定地域を除いて、39県については緊急事態宣言が解除されて、ある程度の日常がもどりつつあるようです。
とはいえ、まだ、県をまたぐ外出は自粛要請が出ていますし、あまりはしゃいでいるわけにもいきません。
ゆっくりと日常を取り戻し、共存していかなければならないようです。
昨今「コロナ」というワードはダーティーなイメージですが・・
実は、「コロナ」という文字、我々海運業界に無縁ではありません。
ご存じも方も多いと思いますが、かつてTOYOTAに「コロナ」というブランドシリーズの乗用車がありました。
いまでこそ日本は自動車輸出大国で、世界を席巻していますが、1960年代後半から1970年初頭にかけて、日本が自動車輸出に進出し始めたころ、現在のようなスタイルの自動車運搬船は存在せず、在来船スタイルの貨物船に、クレーンを使って、一台一台積み込むスタイルだったのです。
当然のことながら大変非効率で、1時間あたり15台程度だったといわれています。(ちなみに現在は1時間当たり100台以上)
輸出車両数の増大とともに考え出されたのが「RORO船」(RollOn RollOff)といわれるタイプの荷役形式の船。(直訳すると転がり込んで転がり出る)要するに車が自走して積み込み積み出しをするタイプの貨物船という事です。
統一基準がいるよね・・
とはいえ、自動車輸出だけの専用船を作ってしまうと、行きはともかく、帰りに空船で帰らなければならないことから、当時は貨物も混載できるタイプが主流で、日本初のRORO船といわれる「追浜丸」や「第19とよた丸」もこのタイプでした。
その後日本の自動車産業が爆発的に進展すると、混載型の船で非効率な輸送するより、仮に帰りが空船でもさっさと車を下ろして、次の積荷をするため日本に帰るほうが効率的と考えられるようになり、そのために、現在のタイプの自動車専用船(PCC:Pure Car Career)=直訳すれば純粋自動車運搬船が建造されるようになったといわれています。
もちろん現在では、三国間輸送に従事するなど、できるだけ効率的なオペレーションを実施して輸送するようにしています。
で、「コロナ」と船の関係は
一言で自動車と言っても、その大きさはまちまちで、いったい何台積めるのかといった統一的な大きさの基準がありませんでした。
「追浜丸」は主に日産の車を輸送していたため、「ダットサンブルーバード換算〇〇台」という基準を使い、「とよた丸」は「コロナ換算で〇〇台」という基準を使用していました。
しかし、これではユーザー側に分かりにくいこともあり。1966年式コロナ(RT43)の大きさである長さ4.125m、巾1.55mの自動車を標準としてこのサイズの自動車を詰める台数を表ことになりました。
船の世界では様々な指標がありますが、PCC(自動車運搬船)を見かけたら「〇〇RT」あるいは「〇〇RT43」という単位を思い出してみてください。
本日は晴天なり♪
2020/05/12 13:15:20 船のあれこれ
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このところ急に暖かい日々が続いていますね。まさに「本日は晴天なり」です。
コロナさえなければ本当にすがすがしい季節を満喫して、趣味のツーリングに出かけるところなのですが、なかなかそうもいきません。
わが中海連の事務局も、可能な限り交代勤務を実施し、窓は開け放し、アルコールジェルて手指の消毒するなど、できるだけの予防に努めています。
14日には新たな判断が出るのではないかと言う観測もありますが、いずれにせよ、一気呵成に解除さるるとは思えないので、今後はいかにコロナと付き合っていくのか・・ってことなんでしょうね。
この「本日は晴天なり」ですが
実はこの言葉、なんと総務省令「無線局運用規則第39条及び第14条第1項」で決まっているってご存じですか?
晴れでも雨でも曇りでも、試験電波を発射するときには「本日は晴天なり」っていう言葉でテストするように定められています。本日の天候は関係ありません。
じゃあ、なぜ「本日は晴天なり」なのかというと、もともと、英語圏でテストのため用いられていた言葉が「It is fine today」であり、この言葉には、音素が一通り出てくるため用いられていたとのことで、その直訳からこの言葉が使用されているらしいです。
ただし、日本語のものにはその機能はありません。
かなり前、アマチュア無線技士の免許取るために無線局運用規則を読み込んでいましたが、すっかり忘れています(笑)
コロナ禍が収まり、早く世の中が「本日は晴天なり」と言えるように、今は一緒に頑張りましょう!
距離はマイル、速度はノット
2020/04/23 16:10:24 船のあれこれ
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いやぁ、どうもコロナコロナで気が滅入ってしましますね。
巷では「コロナ鬱」などというのも問題になり始めておりますが、皆さんどうぞお気を付けください。
おかれた状況の中で、何とかして気が晴れることを見つけることも必要です。
さて、今回のネタは船の速さと距離のはなしです。
画像引用:https://www.oceandictionary.jp/index.html
今更ですが、海上距離を表すのはマイル(海里)ですよね
船の世界ではあまりに当たり前すぎて、何をいまさらと思われる方も多いでしょうが、ここはひとつ復習のつもりで。1マイルがなぜ中途半端な距離である1,852mなのかもう一度おさらいです。
この距離は、赤道から北極点までの子午線の距離である10,000㎞÷90度÷60分≒1,852mがその根拠です。つまり、地球の表面距離の「1分」に相当する距離なのです。
ではなぜ、1分の距離を求める必要があったのかといえば、周辺に陸も見えない大海原では、自身のいる位置を求めるために、「何ノットでこっちの方向に何時間航海した」という情報だけで、地球上の自船の位置を大まかに求めることができます。(大航海時代の話ですが・・)
次に必要になるのが、「方向」ですが、これは地上が見えていれば「地文航法」となりますが、そうでなければ「天文航法」です。つまり、昼間は太陽を、夜には星を見つけて「セキスタント(六分儀)」で計測し、「天測歴」と「天測計算表」を使って自船の位置を割り出します。
現代の船ではまず出番はありませんが、以前お付き合いのあった海技試験官曰く、セキスタントが使えない航海士は航海士に非ずとのことでしたので、基本中の基本のようです。
では「何ノットで」というのはどうやって求めていたのかというと
船の速力をはかる装置を「ログ(測程儀)」といいますが、これも時代とともに変遷しています。
「ログ」っていうのは「木片」のことですが、最も初期には、船の先頭から木片を流し、船尾に到達した時間で速力を求めたオランダ東インド会社の船がその方法を用いたことから、ダッチマンズログと呼ばれ、その名残で、いまだに「ログ」という言葉が使われます。(船の世界は歴史を重んじます)
時代が進み、その後、木製の扇形の板に百数十メートルの測程索(ログライン)をしつらえた、「手用測程儀」(ハンドログ)が使用されるようになり、一定の長さごとに結び目(ノット) を作り、船から流して、一定時間に繰り出された結び目の数を数えることによって、速力を図っていました。
さらに時代が進むと・・
時代が新しくなるにつれ、画像にあるような近代的な機器が登場してきます。
回転子を曳航し、その回転数で速力を知るパテントログ、海中に暴露して、速力による水圧で計測するサルログなど、様々なものが開発されましたが、決定的なのは、いずれも「対水速力」であって、必ずしも正確な速力ではないという点です。
その後、オメガ・デッカ・ロランなど双曲線航法(電波航法)の時代が長く続きましたが、現在の主力はご存知の通り人工衛星を使った「GPS」(アメリカの衛星)航法です。
世界各国が自前の航法衛星システム(GNSS)衛星を構築しつつありますが、EUが構築中のガリレオを除き、大半は軍事用衛星を民生用に公開しているに過ぎず、いざ有事の際には「精度が意図的に落とされる」「使えなくなる」といったリスクもはらんでおり、やはり、天文・地文航法は航海士にとって必要なスキルのようです。
サイレントタイムのはなし
2020/04/10 14:03:17 船のあれこれ
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「サイレントタイム」って聞いたことありませんか?
この言葉がクローズアップされたのは、1995年の「阪神・淡路大震災」の時でした。
がれきに埋まった被災者の助けを求める声が、飛び交う報道ヘリや重機の爆音にかき消されて聞こえない・・・
時間を定めて一切の音を消し、助けを求める小さな声に耳を傾ける時間を確保しよう。
これがサイレントタイムです。
画像は
https://minkara.carview.co.jp/userid/173494/blog/35096256/からいただきました。
船の世界では古くからおこなわれている習慣でした。
言うまでもなく船は陸上を遠く離れて航行します。当然有線通信はできませんから無線が唯一の通信手段となります。
携帯電話・スマホといえども中継局から10数キロも離れたら役にたちませんし、灯火や旗についても肉眼で見える範囲でしか使えません。汽笛なども限界があります。
そのため、船の通信は無線の発達とともにありました。
1899年、マルコーニが初の国際無線通信に成功して以降、わずか10年後には難破した「スロバニア号」による遭難信号(当時はSOSでなくCQDという信号)が発せられています。
しかし、当時の無線の世界では現在のようなルールは存在せず、まさに「無法地帯」。
客船では乗船客のリクエストによる電報を捌く作業に忙殺され、重要な無線通信は二の次。タイタニック事故は氷山の接近情報が正しく伝わらず、事故の一因になったといわれています。
こうしたことから、1912年のタイタニック事故後、無線運用のみならず、船舶の安全にかかわる国際的なルールを統一しようとする機運が盛り上がり、現在の条約の原型 = 海上における人命の安全に関する条約「1914年SOLAS条約」が制定されました。
しかしこの条約は5カ国のみの批准にとどまり、発効には至りませんでした。
それはなぜか。
同年、第一次世界大戦が勃発したからです。(人間って本当に愚かです)
その後、1929年に初の国際基準として統一され、幾度かの変遷を経て「1974年SOLAS条約」として現在のルールが確立されています。
またもや話が逸れてしまいましたが・・・
文章を書いていくとどんどん話が逸れてしまうのが悪い癖です(笑)
話をもとに戻しますが、画像をご覧ください。この画像は旧青函連絡船の「十和田丸」の無線室ですが、時計の15分~18分の3分間、45分から48分の3分間は赤く塗りつぶされています。
これは、「この間は無線送信を控えて、ひたすら聞くことに集中しよう、もしかしたら助けを求めるSOSが発せられているかもわからない。」というための時間です。
長らく通信手段の主力であった「モールス信号」も、その運用には特殊な技能が必要であることや、人工衛星機器の発達から、1985年6月のSAR条約「1979年の海上における捜索及び救助に関する国際条約」が発効し、これに伴いGMDSS(Global Maritime Distress and Safety System:全世界的な海上遭難・安全システム)が導入されました。
(現在モールス信号はアマチュア無線と漁船の一部で使用されるのみとなっています)
現在では地球上のどこにいても、ひとたび海難が起きれば、「衛星イーパブ」という装置から極軌道衛星に救難信号が飛び、たちどころに近隣を航行する船や海上保安機関に速報が入り、救助される仕組みとなっています。
また、それにともない、「サイレントタイム」も現在では行われていませんし、こんな時計も今ではインテリアの中でしか存在しません。
現在では「通信士」が乗っている船は限られた特殊な船ですが、こうしたこと一つをとっても、多くの犠牲のうえに現在の安全規制が成り立っていることがわかります。
ちなみに、日本山岳協会でも遭難者のために1日3回のサイレントタイムを設けているそうです。
今日の文章は長くてスミマセン(#^^#)